青いツバキを作るには

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”青いさんご礁”

 

最近全然ヤマボウシの話してないですけど種を撒いても進捗がわかるのが数年後なので、年一で変わる最近ハマってる植物の話しかできませんね。



ツバキはツバキ科ツバキ属の常緑樹で日本で主に生育しているものはヤブツバキ(Camellia japonica)やサザンカ(Camellia sasanqua)、チャノキ(Camellia sinensis)などがある。

江戸時代から園芸種として人気があるツバキは様々な花色や形態が品種改良によって作出されている。ツバキの主な花色は主に白色や赤色、桃色などがあるが、黄色の花を咲かせるツバキが中国やベトナムなどで発見され、キンカチャ(金花茶 Camellia chrysantha)などとの交配によって黄色系ツバキも作出されている。

紫色のツバキはいくつか品種化されているが安定した紫色(青紫)や完全に青い色のツバキは未だ存在しない。青いツバキが今のところ存在しない理由は植物の花色に関わる色素アントシアニンのうち鮮やかな青色を発色する色素デルフィニジンを作る酵素を持っていないからだ。青色を発色する機構はデルフィニジンだけでなく、赤色を発色するシアニジンにより濃赤紫色など青色に近い発色をするものもある。多くのツバキ属はデルフィニジンによる発色機構を持っていない。

 

ツバキ属はアルミニウム集積植物であり植物体に本来は生育に有害なアルミニウムをため込むことができる。同様にアルミニウム集積植物であるアジサイは酸性土壌では青色、アルカリ性土壌では赤色になるとされている。アジサイの発色には様々な要素により決定されている。アジサイが青色になる際はアジサイに含まれるデルフィニジン-グルコシドが土壌から吸収されたアルミニウムイオンとアジサイに含まれる5-0-カフェオイルキナ酸が結合することで複合体(キレート化)を作り、液胞内の光の吸収スペクトルが青色様になるためだとされる。

 アルミニウムとアントシアニンの結合による発色だけでなく、その植物に含まれる有機酸の差異によっても発色が左右されている。アジサイにはキナ酸と呼ばれる有機酸が含まれるが、5-0-カフェオイルキナ酸の異性体である3-0-カフェオイルキナ酸には植物内のアルミニウムのキレートを阻害する作用がある。また、土壌中のリン酸が多いと難溶性のリン酸アルミニウムになるためアルミニウムの吸収が阻害され赤色が発色しやすくなる。※2

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ツバキ属の中でデルフィニジンを含むとされているのは上述のホンコンツバキのほかにサザンカやカンツバキもデルフィニジン配糖体を持っているものがある。※1

それらのツバキ属に含まれるデルフィニジンはアジサイと同じデルフィニジン配糖体であり、赤色から青色に移り変わるアジサイと同様の発色を期待したい。

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ツバキ属の植物はアジサイと同様にアルミニウム集積植物であり、特にチャノキでアルミニウムの含有量が顕著である。※3 ※4 一般的にアルミニウムは植物にとって有害であり、根の伸長を抑制するなどとされている。アルミニウム集積植物は体内のアルミニウムイオンを不活化することで無害化し、形成された錯体が鮮やかな色を示すことがある。デルフィニジンを含むツバキ属の植物はアジサイとの共通点も多く、アント死人の総量、デルフィニジンの比率、酸性度の調整が整った品種が作出できれば青色のツバキ属が実現できないだろうか。

 

ツバキの紫色品種は”千年藤紫”、”青いサンゴ礁”などがあるが”千年藤紫”の発色機構に関する研究が行われていた※5 紫花のツバキ”千年藤紫”は濃紫花のツバキで主要アントシアニンはシアニジン3-グルコシド、シアニジン3-p-グルコシドからなり、一般的なヤブツバキと変わらない。花色はアルミニウム含有量によって大きく差異があり他の金属錯体は見られなかった。

シアニジンによる紫系ツバキ属の作出はアルミニウムによる作用が大きく”青いサンゴ礁”もヤブツバキ系であるため同様の発色機構だと思われる。シアニジンによる青色発色も近い色を出すことはできそうだが、長い歴史上実現できていない、また鮮やかな青色に近づきたいためデルフィニジンによる青色発色を考えたい。

 

キンカチャなどとの交配による黄色系ツバキについてだが、完全に黄色を発現するツバキは作られていない。黄味がかった色、もしくはクリーム色のものが多く見受けられる。中国やベトナム原産の黄色系原種椿からして黄味が強めのクリーム色のものが多く感じられる。実際、黄色系ツバキのカロテノイド量は他の黄花植物に比べ、完全な黄色を発現するほどではない。※6 黄色系ツバキの他の発色機構としてフラボノイドのケルセチンを持ち、そのうちのケルセチン 3‐ルチノサイドとアルミニウムが結合してできる錯体を作る。その錯体を実験で疑似的に作成したものは吸収スペクトルがキンカチャの吸収スペクトルと類似した数値になっている。

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キンカチャ



ツバキ属は4つの亜属に分けられていて、原始ツバキ亜属・ツバキ亜属・チャ亜属・後生ツバキ亜属に分類される。キンカチャはチャ亜属の中のキンカチャ亜節に含まれる。ツバキ科植物のアルミニウム集積性の分布によると最もアルミニウム集積性が高かったのはチャノキでである。同じチャ亜属であるキンカチャのアルミニウム集積は実験の対象が葉と花であるため一概に比較できないが同様に高いのではないだろうか。

チャノキの繁殖は一般に挿し木で行われ、接ぎ木はあまり行われない。ツバキは成長を促進するため、伸長が旺盛なサザンカに接ぐことがある。チャノキとツバキは接ぎ木の和合性が低く行われていないが、チャノキのアルミニウム集積上限の高さからチャノキとの交配などにより発色度合いを高めることはできないかとも思う。

 

デルフィニジンを含むツバキ属はホンコンツバキだが、植物園に植栽されているもの以外個人入手が困難なため同様にデルフィニジンを含むサザンカを用いて育種を行いたい。

問題となるのは倍数性でツバキは2n=30なのに対してサザンカは2n=90の6倍体であることだ。ツバキとサザンカの交配種であるハルサザンカが存在するが稔性が低く、結実した場合も実生の倍数性が3倍体~10倍体と不安定な異数体になりやすい。そのためサザンカ品種間での交配かツバキ属の他種の1代雑種での青色発現が必要になる。

サザンカ品種のうちデルフィニジンを含むことがわかっている品種は少数のため、可能な交配組み合わせが限られてくる。※1の表から、まず入手可能なデルフィニジン含有品種としてサザンカ品種”七福神”と”緋の司”を入手した。当面両者の交配に加えて、アルミニウム吸収特性の高いチャノキやアントシアニン含有量の高い黒ツバキなどと交配してみたいと思う。

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サザンカ七福神

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侘助

 

引用元

※1ツバキ属植物の花色素に関する研究-とくに系統発生との関連において-

https://ir.kagoshima-u.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=6509&item_no=1&attribute_id=16&file_no=1

※2アジサイの花色の発色機構に関する研究

https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/42992/files/DA08190_abstract.pdf

※3アルミニウム集積植物に関する研究

http://lab.agr.hokudai.ac.jp/botagr/pln/nabe/Topics/Alaccum.htm

※4植物中のアルミニウムにとフッ素の関連性に関する研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/dojo/48/7-8/48_KJ00001686734/_pdf/-char/ja

※5ヤブツバキ「千年藤紫」の紫色花色発言におけるアルミニウムの関与

https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/flower/2015/flower15_s04.html

※6黄花ツバキ属植物キンカチャの花色発色機構

https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJreview2011A2.pdf